[2017/6/30] NASA Juno探査機を支える「すばる」中間赤外線観測

木星8.8um赤外線画像 (May 18, 2017)

(by 笠羽)
私共、2016年7月から周回軌道に入り活動中のアメリカの木星探査機 Junoとの共同観測をNASA/ジェット推進研究所[JPL]のGlenn Orton博士らと行なって来ました。このうち、国立天文台 Subaru 8m望遠鏡の COMICS(冷却中間赤外線分光撮像器)を使って行われてきた観測成果が、NASA/JPLと国立天文台SubaruのWebページで公表されましたので、こちらでも紹介いたします。
[NASA:  英語Link]     [NASA/JPL 英語Link]    [国立天文台Subaru観測所:  日本語link  / 英語link ]

Subaru-COMICSのJuno探査機との同時協調観測は、2017年1月11-15日と5月16-19日に行われ、日本側からは私(1/11-12・5/18-19の観測責任者)、佐藤隆雄くん(本研究室で2012/3博士。JAXA宇宙科学研)、北元くん(PPARCで2016/3博士、当研究室所属)が現地参加しております。軽量化・低コスト化の都合から、Junoでは対流圏〜成層圏の情報を握る中間赤外域の観測手段を搭載せず、「地上観測で補完する」という戦略を取っています。より惑星深部を見るマイクロ波電波、より高高度の熱圏・オーロラ発光域を見る紫外線・近赤外線の観測装置は搭載していますが、この間をつなぐ手段が「地球からの中間赤外線地上観測」です。SubaruのCOMICSは、近年ではほぼ世界唯一の広帯域中間赤外分光が可能な装置で、Juno探査機への支援手段として大変貴重です。日本は打ち上げ当時、直接この探査機チームに参加していなかったのですが、Subaru COMICSによって貴重な貢献をなすことができ、感謝しております。

特に5月の観測は、Juno探査機の「第6回最接近観測」の前後をカバーする形で行われ、Juno探査機が通過する直下領域を含む木星雲層〜成層圏大気の温度場と雲層厚、およびその運動と時間変化を与えることができました。下記写真では、有名な大赤斑とそれを包み込む激しい大気擾乱が見られます。Juno探査機が観測する初の深部情報(100気圧域にまで達する)と結合させることで、これまで得られなかった初の「3次元大気情報」を得ることが可能となります。好天に恵まれたこの観測で、Subaruはその大口径を生かし約1,000-kmの空間分解能を得ることができましたが、これは Juno探査機最接近時におけるマイクロ波観測の空間分解能に匹敵するものです。

木星は、電離したイオ噴出ガスが駆動する太陽系で最も激しいオーロラ発光をその南北両極に擁します。1月・5月のCOMICS観測では、この発光高度(〜500-3,000 km)よりも低い成層圏高度でメタンの発光が見られることも明らかにしています。これは、オーロラを光らせる高エネルギー粒子が大気へ深く侵入し、木星大気を温めまたC・H系有機物を生成する化学反応を引き起こすことを示しています。こうした「高エネルギー粒子の衝突による加熱と有機化学反応」は、かってメタン等も存在したであろう原始地球大気でも起きた可能性がある現象です。東北大では、私共も中核を担う JAXA「ひさき」紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星東北大望遠鏡施設(ハレアカラ:光赤外、蔵王・飯館:電波観測)で、木星の強烈な放射線帯活動、イオ火山活動、これらと結合する木星オーロラ・磁気圏活動を長期連続観測しており、Juno探査機最接近データとの結合解析を進行させつつあります。その成果もお楽しみに。

これらの成果は、搭載装置提供によって参加予定の欧州木星探査機JUICEによる低周波電波(RPWI)、サブミリ波電波(SWI)による観測にも活かされていく予定です。

木星8.8um赤外線画像 (May 18, 2017)

Subaru COMICSで撮像された木星8.8um赤外線画像 (May 18, 2017) [Credit: NASA/JPL, 国立天文台]。Juno探査機が「第6回最接近観測」を行う直前の木星大気、特に対流圏〜成層圏の温度場とアンモニア雲層厚の情報を提供し、Junoが観測する大気深部(雲層下〜100気圧:マイクロ波)と熱圏・オーロラ(高度数百km以上、紫外線・近赤外)をつなぐ。Movieもこちらにあります

<Link: 2016年1月の Subaru – COMICSでの木星予備観測風景>

なお、その他のlinkです。
[HawaiiのTV]  http://khon2.com/2017/07/10/hilo-scientists-assisting-in-exploration-of-jupiter/

<日本語>
[大学]     http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/07/award20170703-01.html
[理]         http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20170703-9182.html
[地物]     http://www.gp.tohoku.ac.jp/information/news/20170703162305.html

<英語>
[大学]     http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/07/award20170703-01.html
[理]         http://www.sci.tohoku.ac.jp/english/news/20170706-9189.html

[2017/4/11] うちの機器@あらせ君,宇宙に響く「ぴよぴよ」声を捉える!

(by 笠羽)
JAXAのジオスペース観測衛星・あらせ君 [ERG: Exploration of energization and Radiation in Geospace] が,約3か月にわたる観測準備を無事終了し、3月24日から定常運用に移行しました。太陽活動に伴って大きく変動する地球周辺の宇宙空間、人類の宇宙活動の現場でもあるこの領域での高エネルギー粒子や電磁波などの観測が本格的に始まります。
[JAXA発表: http://www.isas.jaxa.jp/topics/000920.html]

この衛星プロジェクトは、平成25年12月に逝去された小野高幸名誉教授をリーダーとして開始されました。小野教授の心血が注がれたこの衛星には、私他の本学メンバーもまた心血を注いたプラズマ波動・電場観測器(PWE) [この紹介Webを作ろうとしていますが,暇がない・・・]、およびPWEを含め複数機器の観測データをまとめて処理するS-WPIA(ソフトウェア型波動-粒子相互作用解析装置)が搭載され、本衛星の主役をなします。
[東北大学の関わり] http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20161003-8051.html

現在,地球上各点に配置されたオーロラ観測拠点などとの共同観測を実施中(明日〜明後日,この総括研究会があります)で,その基本となる「コーラス」電波を確実にとらえることに成功しました・・・ので,最初のプレスリリースをだしました。可聴域でもある数kHzの周波数帯で発生し、音声に変換すると「小鳥のさえずり」が聞こえます(笠原さん@金沢大Webで聞くことができます)。このコーラスは、高エネルギー粒子群に満ち溢れた「ヴァン・アレン帯(放射線帯)」の消長に関わると提唱されており,あらせ君による「太陽によって変動する宇宙環境の擾乱」において最初の本命目標です.
なお,この電波を捉えるため,この衛星に関係する方々には,我々の一方的お願いである「電場の雑音出さないでね!」「磁場の雑音出さないでね!」「30mのアンテナ,ちゃんと伸ばしてね!」・・・という度重なるわがままに耐えて頂きました.チームの一員として,ここで深く御礼申し上げます.
次の発表としては,「ぴよぴよ声が電子を揺らす様を捉える! (by SWPIA)」を目指します.
[東北大学Press Release] http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20170411-9033.html
[金沢大学Press Release] https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/45590

<下図> 電場X/Y/Z,磁場X/Y/Zの6成分で見える「コーラス」電波(横軸:8秒間,縦軸:0-2kHz).この電波によって宇宙空間の電子が揺らされ,また電子が揺れてこの電波を作り・・・・というエネルギーのやりとりが,光速に近い速度で飛び回る放射線帯の粒子を作る・・・とされています.この確定的証拠を握るのが,ERGの目標の1つ.なお,宇宙を飛翔する衛星・探査機や有人活動は,こうした高い放射線を避け,また耐えながら,やっていく必要があります.(我々の場合,もっとひどい「木星」の環境で動かす必要があります....)

<おまけの図> 放射線帯(ヴァンアレン帯)を飛翔するあらせ君(© ERG project)と,それを見守る上杉神社のお札(1つは私の部屋,もう1つは宇宙研の運用室にあり).
ERG (© ERG project)MINOLTA DIGITAL CAMERA

[2017/3/30] コズミックフロントNEXT「太陽系最大の惑星 木星の謎に挑む」

(黒田客員研究員 [NICT])
3月30日木曜22:00からNHK BSプレミアムで放送されたコズミックフロントNEXT「太陽系最大の惑星 木星の謎に挑む」に黒田剛史客員研究員(情報通信研究機構)が出演しました.黒田さんは,2017年度から客員准教授となります.

また初っ端には,JAXAの紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星「ひさき」とハッブル宇宙望遠鏡を主軸とした木星オーロラ・磁気圏共同観測キャンペーンの話題が取り上げられ,本学出身の木村智樹さん(現:RIKEN)が長々と

番組の主題は「NASA探査機Juno」の話を前振りに,木星の「巨大磁気圏と強力なオーロラ活動」「大赤斑とその消長:だんだん小さくなっているのですよね」「その内部構造:金属水素とその運動による巨大な磁場生成)」「その起源:どのように,今の位置で木星のような惑星が比較的短時間で生成できたか」そして「木星の大気とより上層の電離圏との結合:先のNature論文ネタでもあり,我々の地上観測の狙いでもある」でした.木村くんは「トップバッター」,黒田くんは「おおとり」の顔的な役回りでしたね.

Junoの成果話がもっとでてくるのかと思っていましたが,まだ「First Results特集号」も出ていないので(もうすぐ出るが),「Juno成果特集」という意味では時期的にちょっと時期尚早でしたね.いずれにせよ,黒田くんネタでもあった「欧州次期木星探査機JUICE」につながっていく話であり,また我々がちょうど開発中のRPWI(5月に「EM = 試験モデル」の対欧州出荷を控える)にも連なっていく話でした.

[2016/12/21] ERG衛星:12/20 20JST 打上 — 衛星分離 — 命名「あらせ」くん

ERG-PWE現地派遣組の 松田さん(名大・ISEE)からのお土産写真を頂きました.

ERGくん,ロケット分離・軌道投入・自立(太陽電池パネル展開,姿勢確立)に成功したようです.新たについたお名前「あらせ」くん.ひさき(打ち上げ前のお名前は「EXCEED」)もそうでしたが.商標の関係で「ERG」は使えないそうで.

http://fanfun.jaxa.jp/topics/detail/9258.html
http://www.jaxa.jp/press/2016/12/20161220_arase_j.html

この先は,ロケットから離れて一人旅ですが,衛星SYSTEMメンバーのご尽力の元,無事に我々PWEの正月明け仕事「PWE-ON > Wire Antenna伸展 > 実観測開始」に至れることを祈っております.放射線帯内を右往左往する「業務」なのでシビアな世界ですが,がんばってくださいませ.(またWire先端球の表面コーティングが熱圏の原子酸素にやられてなくなってしまわないことも,祈っております.なるべく,最低高度を上げてくださいませ・・・)

<以下は 2016/12/18(日)>

上杉神社へのお参り(2016/8/6)と射場への移動(2016/9/29)を経た半年を経て,延びるのかなと思っていた JAXAのジオスペース観測衛星・ERG (Exploration of energization and Radiation in Geospace) の打ち上げが,珍しくも予定通り,2016/12/20 20-21時に,JAXA・内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)から行われます.打ち上げポスターは「吹けよ風,呼べよ嵐」みたいな標語.

私は搭載されるPWE(電場・プラズマ波動観測機)の副主任研究者ですが(対欧州協力であるBepiくんとJUICEくんがあるため,現在は金沢大・笠原さんが主任),講義があるので,仙台から以下で打ち上げ見物の予定です.我々お客としては「ロケットはうまくいって当然!」.上がっていただきましょう.

問題はあくまでも「衛星!」.打上後に最初に日本上空に戻ってくる「第一可視」が重要です.私にとって,自分が直接開発に関わった衛星の打ち上げは,火星探査機Nozomi,オーロラ観測小型衛星Reimei,紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星Hisaki,に続いて4回目.「打上勝率100%」は,日頃の行い(+上杉お札)もあって硬い...とはいえ,ロケットは依然としてrisky business.みなさまと共に見物しつつ,まずは旅路の門出である「周回軌道投入」の成功を祈ります.

観測機器は,当日昼の動作試験が終われば電源OFF,あとは衛星の状態が安定する年明け後までやること・できることもなく,ただ祈るのみ.年賀状は12/21以降に書く予定です.

[2016/10/8] 北くんのひさき衛星を用いた結果がEOS誌に

木星オーロラは地球のオーロラとは違い、非常に強力なオーロラが常に観測されています。このオーロラは主に赤外線や紫外線で観測が行われており、時間変化や空間変化に関する議論が交わされています。

これまでのハッブル宇宙望遠鏡や地上望遠鏡などの大型施設を用いた観測は、年間に数日~1,2週間しか使用できませんでした。数時間~数週間の時間スケールでダイナミックに変化する惑星磁気圏を調べるには、より連続した観測が必要になってきます。

JAXAのひさき衛星は極端紫外の分光観測衛星で、惑星大気・磁気圏を主な観測ターゲットにしています。ひさき衛星も木星オーロラを観測していますが、この衛星の特徴的な点は長期観測できる点にあります。ひさき衛星の連続性を最大限に活用し、木星オーロラの新たな特性が解明されており先日EOS誌で特集されました

まだまだ謎が多い木星ですが、今後もひさきと共に研究を進めていくことで次第に明らかになっていくことでしょう。

Kita, H.; Kimura, T.; Tao, C.; Tsuchiya, F.; Misawa, H.; Sakanoi, T.; Kasaba, Y.; Murakami, G.; Yoshioka, K.; Yamazaki, A.; Yoshikawa, I.; Fujimoto, M. (2016), Characteristics of solar wind control on Jovian UV auroral activity deciphered by long-term Hisaki EXCEED observations: Evidence of preconditioning of the magnetosphere?, Geophys, Res. Lett., 43, 6790-6798, DOI:10.1002/2016GL069481.

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Credits: NASA, ESA, and J. Nichols (University of Leicester)

[2016/10/1] 木星探査機JUICE/RPWI-Japan 紹介 @ 遊星人(日本惑星科学会誌)

(by 笠羽)
欧州宇宙機関(ESA)の木星探査機JUICE(JUpiter Icy Moon Explorer:2022年打ち上げ)に搭載される「Radio and Plasma Wave Investigation」(RPWI: 電波・プラズマ波動探査装置)の紹介記事が,遊星人(日本惑星科学会誌)最新号で出版されました.欧州との共同作業なので全体として何がどう動いているのか見えにくいと思いますが,関係諸氏は恐縮ですがざっと眺めてご理解いただけると幸いです.
なお,以下の流れを部分部分で組んでいますが,低温・高放射線といった環境も違いますし,見る対象も組む相手も違うので,ほとんど新規です.まあ,新規だからやる気も起きる.
<礎となった先行missions> Akebono / Geotail / Nozomi / Kaguya / ERG / BepiColombo

みんなでふたたび木星へ,そして氷衛星へ  その4 ~電波・プラズマ波動観測器 RPWIの飛翔へ,
日本惑星科学会誌, 25, 3, 96-107, 2016.  (Author: 笠羽 康正, 三澤 浩昭, 土屋 史紀, 笠原 禎也, 井町 智彦, 木村 智樹, 加藤 雄人, 熊本 篤志, 小嶋 浩嗣, 八木谷 聡, 尾崎 光紀, 石坂 圭吾, 垰 千尋, 三好 由純, 阿部 琢美, Baptiste Cecconi, 諸岡 倫子, Jan-Erik Wahlund, JUICE-RPWI日本チーム)

JUICE RPWI EM2 (2016/10)

なお直近のニュース: 懸案の1つであった「9/24-26に,明星電気でPreampボックス(RWI)EM-1号機の振動試験を実施.打上振動に耐えることは証明した.(・・・が,ちょっと改良しようかな,とも思った.明星のみなさま & ポーランドのみなさまと相談中)」です.

本学では,私(RPWI 副主任研究者,日本側の代表・開発統括),および以下の方々が主力として絡んでいます.国内では金沢大・京大・名古屋大・RIKEN等,国外ではスウェーデン(全体まとめ)・ポーランド・フランス・チェコ・オーストリア・イギリス・・・と,多くの皆様のお手伝いを頂きつつ.

・三澤浩昭 准教授(惑星プラズマ・大気研究センター [惑星電波観測]): 日本側担当の高周波レシーバ,特に電波プリアンプ(RWI)の開発.木星周回探査機の外に暴露されて低温・高放射線に耐え抜くことを要請される,最も難易度が高い部分です.衛星開発は初ですが,PPARCの地上電波望遠鏡の総責任者であり,能力は証明済.

・土屋 史紀 助教(惑星プラズマ・大気研究センター [惑星電波観測]): 日本側担当の高周波受信部,特にレシーバ(HF)とその制御ソフトの開発.欧州側との複雑なI/Fを仕切る,これまた難易度が高い部分です.PPARCの地上電波望遠鏡開発や,Hisaki・ERGでその能力は証明済.

・熊本 篤志 准教授(地球物理学専攻 [宇宙電磁気]):木星電波の反射を応用したガニメデ・オイロパの氷地殻(とその下の地下海)の探査を行う「パッシブレーダー機能」の開発.そもそも行ってみないと本当にできるかどうかは不明という,これまたしんどい部分です.Akebono・Nozomi・Kaguya・ERGで,その能力は証明済.

・加藤 雄人 准教授(地球物理学専攻 [宇宙電磁気]): 他機器のデータとまとめて探査機内での高度データ処理を行う S-WPIA機能(ソフトウェア型波動-粒子相互作用解析装置)の開発.ERGで初めて搭載する機能なのでその実証を要しますが,惑星への展開は史上初.

<関連>
記事:[2016/7/21-15] 木星探査機JUICE/RPWIチーム会議
記事:[2016/2/7-21] 欧州木星探査機JUICE: RPWI – EM1統合試験
記事:[2016/1/23-24] SUBARU木星観測:COMICS
記事:[2015/4/20-24] 欧惑星探査機への巡業:火星探査機と木星探査機
記事:[2015/1/30-2/2] 木星観測@Subaru, ハワイ

#木星探査機JUICEについては以下もご参照下さい。
・日本側事情 https://juice.stp.isas.jaxa.jp/
・欧州側事情 http://sci.esa.int/juice/JUICE (Credit: ESA)

[2016/9/29] ERG衛星:内之浦(打上場)へ移動

(by 笠羽)
本学・地球物理学専攻メンバーが以下のスキームで中核を担ってきた JAXAのジオスペース観測衛星・ERG (Exploration of energization and Radiation in Geospace) が,2016年度末の打ち上げを目指して,JAXA・内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)へ移動します.これに先立って,JAXA宇宙科学研究所(相模原)で9/29に報道公開が行われました.(私はスイス・ベルンで今週開催中だった「JAXA 紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星Hisakiのサマリ会合」に仙台からTV会議で出ており,「そう聞いた」だけではありますが.)

この衛星は,地球周辺の宇宙空間に広がる高エネルギー電子が蓄積される「バンアレン帯(放射線帯)」の成因を調べるため,電子と電磁場を同時観測してその相互作用を解明するものです.本学は地球・太陽・惑星における高エネルギー現象の研究を主目標のひとつとしてきており,この衛星はこの目標に向けた長年の研究における画期となります.内之浦でのフライト前最終試験は,10月から開始されます.

ERG衛星 20160930 (© JAXA)相模原における出荷前のERG (©JAXA)

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<東北大学からの参画>
・小野 高幸 名誉教授(元・地球物理学専攻):元・プロジェクト全体の主任研究者(PI).在職時の2013年の12月にご逝去.後継は,本学出身(地球物理学専攻)の三好由純准教授(名古屋大・宇宙地球環境研究所 准教授).

・わたくし – 笠羽 康正 教授(地球物理学専攻 [惑星大気物理]):本衛星に搭載される PWE(電場・プラズマ波動観測機)の主要メンバー.2015年まで主任研究者.2016年以降,笠原禎也教授(金沢大・電子情報科学専攻)へ交代し,現在は副主任研究者,15m長で衛星から展開される4本のワイヤアンテナ(WPT-S)とDC電場レシーバ(EFD)の責任者,およびオンボードデータ処理部のコア部開発担当.
電場・プラズマ波動観測は,日本の宇宙科学衛星において長年東北大他が担ってきたもので,本学にとっては大家寛 名誉教授,小野 名誉教授の松明を継ぐものでもある.PWEは,2018年打上予定の日欧合同水星探査機BepiColomboに搭載されるPWE(電場・プラズマ波動観測機)の技術を先行して地球周回に展開するもので,欧州宇宙機関(ESA)が2022年に打上予定の木星・氷衛星探査機 JUICE(JUpiter ICy moons Exploler)に搭載されるRPWI(電波・プラズマ波動観測機)にも受け継がれる.(笠羽は前者の主任研究者,後者の副主任研究者・日本側チーム代表)

・熊本 篤志 准教授(地球物理学専攻 [宇宙電磁気]):PWE を構成する HFA(高周波電波レシーバ)の責任者.BepiColombo-PWI・JUICE-RPWIにおける開発担当を兼ねる.

・土屋 史紀 助教(惑星プラズマ・大気研究センター [惑星電波観測]):PWE を構成する HFA の開発,特にオンボード・地上データ処理部を担う.JUICE-RPWI における開発担当を兼ねる.

・加藤 雄人 准教授(地球物理学専攻 [宇宙電磁気]):本衛星に搭載される S-WPIA(ソフトウェア型波動-粒子相互作用解析装置の開発担当,特に大規模数値シミュレーションによる動作原理の開発.主任研究者は,小嶋浩嗣 准教授(京大・生存圏研究所).
この装置は,PWEなど複数機器の観測データをまとめて衛星内で高次処理するもので,この種の「衛星内高度データ処理」は非常に珍しい.ERG衛星は地球の放射線帯を構成する相対論的エネルギー電子の成因を調べることを主目的に据えるが,本装置はその主役となる

他にも,小原隆博教授(惑星プラズマ・大気研究センター・センター長)らが高エネルギー粒子観測,坂野井健 准教授(惑星プラズマ・大気研究センター[惑星分光観測])らが地上オーロラ観測などで参加し,グループ総動員でこのミッションを支えていくことになる.
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<報道>
河北新報  http://www.kahoku.co.jp/naigainews/201609/2016092901001528.html
共同通信 http://this.kiji.is/154175409391304708?c=110564226228225532
朝日新聞 http://topics.smt.docomo.ne.jp/article/asahi/nation/ASJ9Y4PWMJ9YULBJ007
毎日新聞  http://mainichi.jp/articles/20160930/ddp/012/040/015000c
産経新聞 http://www.sankei.com/photo/story/news/160929/sty1609290021-n1.html
東京新聞 http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016092901001528.html
神奈川新聞 http://www.kanaloco.jp/article/202521
静岡新聞  http://www.at-s.com/news/article/science/286750.html
中日新聞 http://www.chunichi.co.jp/s/article/2016092901001528.html
神戸新聞 https://www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/compact/201609/0009537178.shtml
高知新聞 https://www.kochinews.co.jp/article/52455/
西日本新聞 http://www.nishinippon.co.jp/nnp/science/article/278357
長崎新聞 http://www.nagasaki-np.co.jp/f24/CO20160929/sc2016092901001528.shtml
日刊工業新聞   https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00401566

宇宙作家クラブ http://www.sacj.org/openbbs/ (えらく細かい.うーむPWE所属のMSCの写真もあるな.仕事中に撮ったものは公開できないはずなのが,こういうイベントで撮ったらいいわけですね.)
Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160929-00000145-jij-sctch

NHK http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160929/k10010711621000.html
テレビ朝日 http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000084535.html

放射線帯(ヴァンアレン帯)を飛翔するであろうERG衛星の図.
せっかく上杉神社でお札も頂いたので,無事の旅立ちを祈る(© ERG project)
ERG (© ERG project)

磁場擾乱に伴う対流電場の発達およびエネルギー伝搬過程

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地球周辺の宇宙空間は、太陽風と地球の固有磁場との相互作用により「磁気圏」と呼ばれる領域を形成します。太陽風や磁気圏尾部からのエネルギー注入に伴い、大規模な電場が急激に発達、そして地球方向へと伝搬し、磁気圏内の荷電粒子や電磁場エネルギーの輸送・加速を引き起こすことが知られています。このような「磁気圏の大規模構造変動に伴う磁場擾乱現象」に対する応答やエネルギー輸送過程を理解するためには、プラズマ輸送そのものを担う電場の時間的・空間的な発達・伝搬過程を詳細に調べる必要があります。そこで、近年打ち上げられたTHEMIS衛星やRBSP衛星、およびSuperDARNレーダーなどによる磁気圏・電離圏電場の同時多点観測データを解析し、磁場擾乱現象に伴う電場の発達・伝搬過程およびエネルギー輸送過程を観測的に明らかにしようとしています。

図は朝夕方向の電場の発達過程を空間的に示したものです。太陽風の急激な変化によって地球の磁気圏が圧縮され、その圧縮波の伝搬に伴って西向きの電場が全球的に発達します(右上→左下)。その後、地球磁気圏の対流が強まり、夕方方向の電場が発達します(右下)。(高橋直子)

シミュレーションによる木星内部磁気圏の研究

木星の衛星イオからはガスやプラズマが木星磁気圏に放出されています。そのガスやプラズマはイオ軌道上にドーナッツ状に分布しています。これをイオプラズマトーラスと言います。

Hisaki衛星搭載の極端紫外線分光器EXCEEDによって、イオプラズマトーラス発光分布が朝側と夕側で非対称に変動することが観測されました。この非対称の変動はイオ軌道上に~3-7[mV/m]の電場が朝夕方向にかかることで説明でき、この電場の起源として太陽風の影響が示唆されています。

私は、この電場が本当に太陽風の影響により生成されるのかどうかをコンピューターシミュレーションを用いて解析しています。

研究紹介

 

上の図は木星磁気圏赤道面上のポテンシャル分布の解析結果です。中央の白い円が木星本体です。横軸は太陽から離れる方向を正に取っています。つまり、この図の左側に太陽があります。縦軸は木星の公転方向を正にしています。つまり、図の上側が朝側で、下側が夕側です。

朝側で赤くなっておりポテンシャルが正になっているのことが分かります。一方、夕側では青くなっており負に分布しています。このことから、朝側から夕側にかけて電場がかかっていることが確認できました。

[寺田綱一朗]

 

火星電離圏界面におけるKH不安定の数値シミュレーション

渦

火星は地球のような固有磁場をもたない、非磁化惑星と呼ばれる惑星です。そのため、惑星の超高層大気は太陽から吹き付けるプラズマや磁場と直接相互作用する環境にあります。この相互作用によって惑星の電離大気が宇宙空間へ流出することがわかっており、火星の長い大気環境の変化に大きな影響を与えてきたと考えられています。私は、この太陽風プラズマと惑星電離大気の界面に発生しうると考えられるケルビン–ヘルムホルツ(KH)不安定に着目し、これを介した大気散逸現象を数値シミュレーションを用いて研究しています。

Because the Mars has no intrinsic magnetic field, the solar wind flow directly interacts with the planetary ionosphere. As a result of this interaction, ionospheric ions can escape from Mars and this is the one of important processes to understand of atmospheric evolution on Mars. Focusing on the Kelvin-Helmholtz (KH) instability which can occur the boundary between solar wind plasmas and ionospheric plasmas and using numerical method, we would like to understand its physical mechanisms and how much ions can escape from Mars through the KH instability.

[相澤]

金星大気流出

Credit by ESA

Credit by ESA

金星は地球のような固有磁場をもたず、超高層大気が太陽風とよばれる太陽から吹き付けるプラズマや磁場の流れと直接相互作用しています。この直接の相互作用により、金星超高層の電離大気は太陽風中の電磁場によって加速を受け、宇宙空間へ流出するという現象が起こっています。 この大気流出現象は金星の大気進化に大きな影響を及ぼしてきたと考えらており、過去の金星の姿を突き止めるため現在も世界中で研究が行われています。我々は欧州の探査機Venus Expressが観測したデータを用い、金星の電離大気がどのような物理過程で加速され、宇宙空間へ流出していっているのかを調べています。

Due to lack of intrinsic magnetic field on Venus, the upper atmosphere is directly interacted with the solar wind. As a result of the interaction, ionospheric ions can be accelerated beyond an escape velocity and removed from Venus. The fact has played an important role for the atmospheric evolution on Venus. Collaborating with European Institute, we analyze the data from Venus Express to study about the ion escape from Venus. Purpose of this study is to figure out physical processes of the ion acceleration and to determine a total amount of removed ionospheric components with a dependence on the solar wind’s conditions.

科学衛星・惑星探査機の搭載機器開発

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(JUICE搭載プラズマ波動受信機の開発風景)

Staffの役割の1つは、「長期投資」すなわちすぐに結果がでない仕事を頑張ることです。 みなさんに一部お手伝い頂きながら以下の開発が走り、特に「電場電波観測装置」や「データプロセッサ」の開発責任を担ってきました。
惑星専用紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星 Hisaki / Exceed (2013年9月に打上成功! 活動中)
ジオスペース探査衛星ERG (2016年度打上予定)
日欧共同水星探査計画 BepiColombo (2017年打上,2024-2026年周回観測予定)
欧ESA 木星探査計画 JUICE (2022年打上,2029-2031年周回観測を予定)

並行して,以下のミッションにも共同研究者として研究に参加中.
米NASA 火星探査機 MAVEN(2014年に周回観測開始)
欧ESA 火星探査機ExoMars Trace Gas Orbiter(2016年に到着,2017年に観測開始)

また、2024年を目指している日本の火星探査検討にも加わっています.こういうものはすべて息の長い仕事ですが、望遠鏡・海外探査機による観測研究、数値モデルによる理論研究、観測機器の基礎開発といった「結果に近い仕事」を積み重ねつつ、みなで頑張っていきましょう。