欧米最新探査機による火星上層大気の組成変動の研究

火星の上層大気は、およそ高度80km以上の熱圏や電離圏と呼ばれる大気のことを指していて、中間圏のさらに上空に位置しています。大気の密度は地表に比べてとても小さいですが、太陽極端紫外線や太陽風・太陽からの高エネルギー粒子といった、宇宙空間からやってくる要因によって大気が加熱されたり、原子・分子が電離化するなど、大きく変動します。一方で、最近の観測から、宇宙空間からやってくる要因だけではなく、全球ダストストーム(それに伴う観測結果)や下層大気の膨張や収縮といった下層大気の変動が、火星では上層大気まで伝わりやすいことが明らかになってきました。中でも、上層大気の組成変動は、下層大気からの影響と宇宙空間からの影響の両方を受けて変動することが予測されます。そこで、下層大気が上層大気に与える影響に注目し、上層大気組成の変動を人工衛星の観測データを用いて解析しています。

NASAの火星周回衛星Mars Atmosphere and Volatile EvolutioN(MAVEN)には、上層大気の成分を分子種ごとに観測できる装置が複数搭載されています。装置で観測された各分子種の数密度を、季節や緯度方向・地方時など、考えられる要因で分類して変化の様子を解析しました。実際に上層大気の組成が下層大気の変動に伴って増減する様子を捉えました(下図、b)。

(a) 太陽極端紫外線強度(黒), 火星-太陽間距離(青), (b) 観測された高度140 kmにおけるN2/CO2比の季節変化

ただ、下層大気の変動が上空まで伝わっていくメカニズム・様子を完全に解明することは、上層大気の観測だけではできません。幸運なことに、現在、火星は複数の人工衛星で観測が行われており、下層大気・中層大気の大気観測を目的とした欧州のTrace Gas Orbiter(TGO)という人工衛星があります。今後は、TGOに搭載された装置を開発・運用しているベルギーの研究所の方々と協力しながら、TGOで観測された下層大気〜上層大気にかけての大気構造・各分子種の分布を解析し、MAVENで得られる結果と比較考察を行う予定です。(博士2年 吉田)

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