火星オーロラ

(*アイキャッチ画像は、成蹊大学藤原教授がアイスキャットレーダー観測時にスバールバル諸島で撮影した地球オーロラ)

図1. 太陽高エネルギー粒子が到来した際に夜側全球を覆う火星オーロラ発光現象(左が到来前;右が到来時)。米火星探査機MAVEN搭載紫外線分光器IUVSで観測された[Schneider et al., GRL, 2018]。

火星のオーロラをみたことがありますか?米火星探査機MAVENが近年になって夜側全球を覆う火星特有のオーロラを発見しましたが(Schneider et al., GRL, 2018)、最新のアラブ火星探査機EMMがさらに様々なタイプの火星オーロラを発見しています(Lillis et al., GRL, 2022)。最新の探査機によって得られたオーロラ画像はウエブで自由に取得でき、世界中の人が自由に解析することができます(https://sdc.emiratesmarsmission.ae)。ぜひ自分なりに眺めてみてください。こんなことができるなんて新しい時代の到来です。

図2. 様々なタイプの火星オーロラ発光現象。アラブ火星探査機EMM搭載の紫外線分光器で観測されたもの [Lillis et al., GRL, 2022]。

火星は、地球のような強い固有磁場が存在しないことが知られています。一方で、オーロラは、太陽から降り注ぐプラズマの流れ(太陽風)と、地球の固有磁場(磁石)と、そして大気があるために光ると考えられてきました。そのため、Mars ExpressそしてMAVENによる近年の発見まで火星オーロラはその存在が知られることはありませんでした。オーロラは、宇宙と大気の狭間で光る発光現象であり、人類がロケットを打ち上げる以前から、地球周辺の宇宙空間の変動を知る手がかりとして重要な研究対象でした。固有磁場のある地球と、固有磁場のない火星。それぞれのオーロラの特徴を理解することができれば、惑星の大気と周辺の宇宙環境がどのように相互作用するのかを知ることができます。そして固有磁場が生命環境にとってどのような役割を果たすのかを理解することができるのです。火星オーロラを介した放射線被曝や通信障害の監視(非磁化惑星における宇宙天気)は、近い将来計画されている火星有人探査において非常に重要であり、火星オーロラ観測の重要性は、将来のアメリカ米探査計画Mars Ice MapperのMission Definition Teamの最終報告書において記述があります(私たちも一員です)。

私たちのグループでは、2030年代に検討されている欧州の大型火星探査ミッションにオーロラカメラを搭載すべく開発を始めました。ESAのMクラスミッションに提案しているM-MATISSE探査計画。私たちのオーロラカメラは、日本が唯一機器開発責任者PIとして名を連ねている測器です。従来の欧州のオーロラ観測器は全て紫外線オーロラです。しかし近年の新たな発見や我々のグループの数値モデル計算により、私たちが地球でよくみるあの緑色の明るいオーロラが火星でも発光していることが予測されています。私たちは、小型軽量高感度のオーロラカメラを火星探査機に搭載し、火星の美しいグリーンオーロラの撮像に世界で初めて成功して地球に送り届けたいと考えています。

中川

 

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