[2017/6/30] NASA Juno探査機を支える「すばる」中間赤外線観測
(by 笠羽)
私共、2016年7月から周回軌道に入り活動中のアメリカの木星探査機 Junoとの共同観測をNASA/ジェット推進研究所[JPL]のGlenn Orton博士らと行なって来ました。このうち、国立天文台 Subaru 8m望遠鏡の COMICS(冷却中間赤外線分光撮像器)を使って行われてきた観測成果が、NASA/JPLと国立天文台SubaruのWebページで公表されましたので、こちらでも紹介いたします。
[NASA: 英語Link] [NASA/JPL 英語Link] [国立天文台Subaru観測所: 日本語link / 英語link ]
Subaru-COMICSのJuno探査機との同時協調観測は、2017年1月11-15日と5月16-19日に行われ、日本側からは私(1/11-12・5/18-19の観測責任者)、佐藤隆雄くん(本研究室で2012/3博士。JAXA宇宙科学研)、北元くん(PPARCで2016/3博士、当研究室所属)が現地参加しております。軽量化・低コスト化の都合から、Junoでは対流圏〜成層圏の情報を握る中間赤外域の観測手段を搭載せず、「地上観測で補完する」という戦略を取っています。より惑星深部を見るマイクロ波電波、より高高度の熱圏・オーロラ発光域を見る紫外線・近赤外線の観測装置は搭載していますが、この間をつなぐ手段が「地球からの中間赤外線地上観測」です。SubaruのCOMICSは、近年ではほぼ世界唯一の広帯域中間赤外分光が可能な装置で、Juno探査機への支援手段として大変貴重です。日本は打ち上げ当時、直接この探査機チームに参加していなかったのですが、Subaru COMICSによって貴重な貢献をなすことができ、感謝しております。
特に5月の観測は、Juno探査機の「第6回最接近観測」の前後をカバーする形で行われ、Juno探査機が通過する直下領域を含む木星雲層〜成層圏大気の温度場と雲層厚、およびその運動と時間変化を与えることができました。下記写真では、有名な大赤斑とそれを包み込む激しい大気擾乱が見られます。Juno探査機が観測する初の深部情報(100気圧域にまで達する)と結合させることで、これまで得られなかった初の「3次元大気情報」を得ることが可能となります。好天に恵まれたこの観測で、Subaruはその大口径を生かし約1,000-kmの空間分解能を得ることができましたが、これは Juno探査機最接近時におけるマイクロ波観測の空間分解能に匹敵するものです。
木星は、電離したイオ噴出ガスが駆動する太陽系で最も激しいオーロラ発光をその南北両極に擁します。1月・5月のCOMICS観測では、この発光高度(〜500-3,000 km)よりも低い成層圏高度でメタンの発光が見られることも明らかにしています。これは、オーロラを光らせる高エネルギー粒子が大気へ深く侵入し、木星大気を温めまたC・H系有機物を生成する化学反応を引き起こすことを示しています。こうした「高エネルギー粒子の衝突による加熱と有機化学反応」は、かってメタン等も存在したであろう原始地球大気でも起きた可能性がある現象です。東北大では、私共も中核を担う JAXA「ひさき」紫外線・極端紫外線望遠鏡衛星、東北大望遠鏡施設(ハレアカラ:光赤外、蔵王・飯館:電波観測)で、木星の強烈な放射線帯活動、イオ火山活動、これらと結合する木星オーロラ・磁気圏活動を長期連続観測しており、Juno探査機最接近データとの結合解析を進行させつつあります。その成果もお楽しみに。
これらの成果は、搭載装置提供によって参加予定の欧州木星探査機JUICEによる低周波電波(RPWI)、サブミリ波電波(SWI)による観測にも活かされていく予定です。
<Link: 2016年1月の Subaru – COMICSでの木星予備観測風景>なお、その他のlinkです。
[HawaiiのTV] http://khon2.com/2017/07/10/hilo-scientists-assisting-in-exploration-of-jupiter/
<日本語>
[大学] http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/07/award20170703-01.html
[理] http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20170703-9182.html
[地物] http://www.gp.tohoku.ac.jp/information/news/20170703162305.html
<英語>
[大学] http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/07/award20170703-01.html
[理] http://www.sci.tohoku.ac.jp/english/news/20170706-9189.html