過去火星における流水地形の再現

図:流水地形を作るのに必要な「冷涼・湿潤」な気候の継続期間(単位:万年) [Kamada et al., 2020]

火星の地表面には約38億年前にできた液体の水が流れた痕とされる「流水地形(バレーネットワーク)」が数多くありますが、それらの形成に必要な温暖な気候を維持する仕組みはわかっていません。これは、当時の太陽が現在より暗く、二酸化炭素の濃い大気をもたせても十分に暖まらないためです。私達は、地球の気候モデルをベースにこの時代の火星の気候と流水を再現する新たなモデルを開発し、当時の火星が夏に降雨、冬に積雪する「冷涼・湿潤」な気候である可能性を示し、またこの気候が約100万年継続すれば現在の流水地形が形成できることを示しました。これは、火星上のすべての流水地形の再現を説明するものではないものの、隕石の衝突や火山の噴火など突発的な温暖化を考慮しなくても地表に流水が存在しえたことを初めて提唱する結果です。今後は初期火星における地形の変化や氷河による浸食も考慮に入れた研究を進めていくとともに、メタンの海が存在するタイタンや太陽系外のどこかに存在する地球のような水を擁する岩石惑星にも適用して、その気候や生命の誕生につながりうる環境の検討へとアプローチしていく予定です。

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