太陽高エネルギー粒子降り込みに対する大気応答モデル
太陽高エネルギー粒子(Solar Energetic Particles: SEP)は、太陽フレアやコロナ質量放出に伴い放出される数keV~数GeVの電子や陽子、重イオンを指し、惑星間空間を伝搬し惑星大気に降り込むと大気分子の電離や解離、加熱などの影響を及ぼします。大きなSEPイベントが発生したとき、地球では極域の酸素分子や窒素分子の解離によりNOx, HOxが増大し、それに伴いオゾンが50%程度減少することが報告されています。大気へのSEPの影響について観測・理論ともによく調べられている地球とは対照的に、火星大気に対するSEPの影響は観測・理論ともにまだ詳しく調べられていないのが現状です。本研究では数値シミュレーションを用いて、火星大気に対するSEPの影響を解明することを目指しています。
SEPの火星大気への影響を調べる上で、地球と火星は何が違うのでしょうか?地球には固有磁場が存在するためSEPの影響が極域に限定されますが、火星には固有磁場がないためSEPは直接大気に侵入することができ、その影響は全球に及びます。火星探査機MAVENの観測により、SEPイベント時に火星夜側で全球的に光るディフューズオーロラが発見され、さらにSEPが高度60km程度まで侵入していることが判明しました。このオーロラ発光は電子によって引き起こされていると考えられていますが、一方で電子の降り込みの理論では観測を正確に説明できないこともわかっています。我々は、今まで注目されてこなかった陽子の降り込みに着目し、まずオーロラ発光の観測を説明できる理論を構築しています。加えて、地球では明らかになっているオゾンなどの化学組成の変化について、火星大気ではどのような影響が及ぼされるのかを推測する理論モデルの構築を目指しています。(博士2年 中村勇貴)