大気大循環モデルを用いた金星・タイタンの惑星気象の研究
タイタンの湖の写真 [Credits: NASA]
私は惑星大気中で起こる現象の物理を明らかにするため、大気大循環モデルというものを用いて研究を行っています。大気大循環モデルとは、簡単に言えばコンピュータ上で再現された仮想の惑星環境のようなものです。
なんと言っても、モデル研究の醍醐味は自分の手で惑星環境を自由に再現できることです。例えば、「惑星の自転を遅くしたらどうなるのか?」、「大気の組成を変えたら循環は変わるのか?」といった実際には実験で確かめられないような課題に対して、モデルによるシミュレーションで取り組むことができます。すなわち、惑星の特徴(半径や大気組成、太陽放射の強さなど)をモデルに設定してあげれば、どんな惑星の環境でも再現できることになります。私の研究対象は金星とタイタンなので、モデルをそれ用に作り替えてやればいいわけです。言い換えれば、惑星そのものを実験室にするような感じです。
タイタンと金星の超回転の様子 [Imamura et al., 2020]
こうして再現された金星・タイタンの環境を解析すれば、大気中で起こる現象の物理メカニズムの解明に役立てることができます。これら二つの天体は大気が100 m/s ~ の高速で回転していたり、全体が厚い雲・もやで覆われているなど共通の特徴があります。しかしながら、金星は灼熱でタイタンではメタンの雨が降ったりと、全く違う特徴も持っています。つまり、二つの天体には共通する物理とその天体特有の物理があることが示唆されます。
惑星大気中で普遍的な物理現象を探すのは、大気中の物理の本質を理解するためにとても重要です。一方で、惑星大気がどのようにして特徴づけがされているのかという問題は、惑星の多様性に迫ることができるのでとても魅力的です。私は、金星・タイタンを出発点として惑星に普遍な物理と惑星環境に変化をもたらす要因の両方を理解し、やがては木星などのガス惑星、系外惑星も含めた惑星大気物理の統一的理解をしていきたいと考えています。(修士1年 狩生宏喜)